人に期待して、思ったとおりにならずにがっかりする。それが何度も続くと、もう誰にも期待しないほうが楽だと考えたくなります。ただ、期待をまとめて捨てようとすると、頼みごとができなくなったり、相手への関心まで薄れたりして、かえって苦しくなる人もいます。
この記事では、手放したほうが楽になる期待と残してよい期待の見分け方を軸に、期待を減らす具体的なやり方を、職場や家庭でよくある場面とあわせて説明します。
手放す期待と残してよい期待
人に期待しないというのは、相手に何も求めないことではありません。手放すのは、相手が知らないまま背負わされている期待です。「言わなくても気づいてほしい」「これだけ手伝ったのだから、次は助けてくれるはず」「そのうち性格が変わってくれるはず」。自分の中では当然のことでも、相手は約束した覚えがありません。期待が外れて腹が立っているのに、相手からは「何を怒っているのか分からない」と返されるのは、このずれがあるからです。
一方、仕事の締め切りや家事の分担のように、お互いに合意した約束は期待してよいものです。守られなければ、話し合って直してもらう対象になります。期待は次の4種類に分けると、扱い方が決めやすくなります。
| 期待の種類 | よくある例 | 扱い方 |
|---|---|---|
| 言葉にしていない期待 | 忙しそうにしていたら手伝ってほしい、疲れているのを察してほしい | 必要なら依頼として伝える。伝えないなら手放す |
| 見返りへの期待 | 手伝ったのだから、お礼や手助けが返ってくるはず | 返ってこなくても惜しくない範囲でだけ行う |
| 相手が変わることへの期待 | 時間にルーズな人が時間を守るようになる、価値観が自分と同じになる | 相手が決めることとして手放し、自分の対応を変える |
| 合意した約束や役割への期待 | 仕事の締め切り、家事の分担、待ち合わせの時間 | 残してよい。守られなければ具体的に話し合う |
どれに当たるか迷ったら、「相手はこの期待を知っているか」「相手はそれを引き受けたか」の2つを確かめます。両方にはいと答えられるものだけが、相手に守ってもらうことを求められる期待です。どちらかがいいえなら、言葉にして合意を取りにいくか、手放すかのどちらかを選びます。
期待を減らす具体的なやり方
期待を言葉にして依頼に変える
「あれだけ忙しそうにしていたのだから、分かってくれるはず」という感覚は、思い込みであることが少なくありません。人には、自分の気持ちや考えが実際以上に相手に伝わっていると感じる傾向があり、心理学では透明性の錯覚と呼ばれます。日本認知心理学会で報告された実験では、4杯は同じ味で1杯だけ味の違う飲み物を、できるだけ無表情で飲んでもらい、その様子の録画を別の人が見て違う1杯を当てました。飲んだ本人は、見た人の正答率を実際より高く見積もっていました。
顔に出しているつもりでも、相手には届いていないことが多いということです。そこで、相手に動いてほしいことは、何を・いつまでに・どのくらいを入れた依頼の形にします。
| 心の中の期待 | 言葉にした依頼 |
|---|---|
| 忙しいのを見て、少しは手伝ってほしい | 「金曜までに、資料の数字のチェックだけお願いできますか」 |
| 疲れているのを察して、家事をしてほしい | 「今日は疲れているから、夕飯のあとの皿洗いをお願いしたい」 |
| 遅れるなら連絡してほしい | 「10分以上遅れそうなときは、分かった時点でLINEしてもらえると助かる」 |
伝えるときは、相手を責める言い方(「なんでやってくれないの」)を避け、自分の希望として話します。自分の気持ちを率直に伝えながら相手の立場も尊重するこうした伝え方は、アサーションと呼ばれます。
依頼は断られることもあります。断られたら、それは相手が引き受けられないことだと分かったということです。そのうえで、自分でやるか、別の人に頼むかを決めればよく、黙って期待し続けるより早く次に進めます。
相手のこれまでの行動から期待の量を決める
期待が外れてつらいのは、期待の量が相手の実際の行動と合っていないときです。「普通ならこうするはず」ではなく、「この人はこれまでどうしてきたか」を基準に見積もり直します。
たとえば、締め切りを2回続けて過ぎた同僚には、本当の締め切りより数日早い日付を伝え、途中で一度進み具合を確認します。返信がいつも数日後になる友人には、急ぎの用件を頼まないようにします。天気予報を見て傘を持つのと同じで、相手を責めずに済ませるための準備です。相手の行動が変わってきたら、期待の量も戻します。
見返りは返ってこなくてよい範囲にとどめる
手伝い、プレゼント、気配りは、相手のためにしたことでも、どこかでお返しを期待しがちです。やる前に「何も返ってこなくても、やってよかったと思えるか」を自分に聞いてみてください。思えないなら、量を減らすか、条件を先に伝えます。
「今回はシフトを代わるから、来月どこかで1日代わってほしい」と言っておけば、それは見返りへの期待ではなく、合意した約束になります。言いにくい相手ほど、こうして先に言葉にしておくと、後で不満をため込まずに済みます。
結果を引き受けるのは誰かで切り分ける
相手が変わることへの期待を手放すときに役立つのが、アドラー心理学の課題の分離です。ある物事の結果を最終的に引き受けるのが誰かによって、それが誰の課題なのかを決める考え方です。
部下がいつも期限ぎりぎりに資料を出すなら、期限を守るかどうかは部下の課題です。ただし、そのせいでチームの仕事が遅れるなら、途中で確認する仕組みを作るのは上司である自分の課題になります。家族の食生活が気になる場合も、何を食べるかを選ぶのは本人で、心配していると伝えるかどうかは自分が決めることです。
課題の分離は、相手を切り捨てるための考え方と誤解されがちです。『嫌われる勇気』の著者である岸見一郎氏と古賀史健氏は、課題の分離は対人関係のゴールではなく出発点であり、目指すのは協力だと説明しています。誰の課題かを切り分けたうえで、「一緒に考えようか」と申し出るのは自由です。断られたら、いつでも力になると伝えて見守ります。
がっかりしたときの気持ちの整理
期待しないと決めても、がっかりする瞬間はなくなりません。そのときは気持ちを無理に打ち消さず、次の順番で整理すると、怒りを相手にぶつけずに次の行動へ移れます。怒りが強いうちは判断がぶれやすいので、数時間から一晩おいてから取りかかるのが無難です。
- 何を期待していたかを一文で書く。「私は、〇〇さんが△△してくれると思っていた」の形にします。頭の中だけで考えるより、メモに書いたほうが客観的に見られます。
- その期待を相手が知っていたか、引き受けていたかを確かめる。最初に紹介した2つの問いです。
- 次の行動を一つ選ぶ。依頼として伝える、自分でやる、別の人に頼む、その人に任せる範囲を減らす、のいずれかです。
たとえば、会議の準備で手一杯だったのに、隣の同僚が資料の印刷を手伝ってくれなかったとします。期待を書き出すと「自分が忙しいのを見て、印刷くらいは手伝ってくれると思っていた」。同僚はこの期待を知らず、引き受けてもいません。そこで次回は、前日に「明日の会議資料、印刷をお願いできますか」と頼むことにします。こうして整理すると、同僚は冷たい人だったという結論から、頼み方を変えれば済む話に変わります。
手順2で「相手は知っていて、引き受けてもいた」となった場合は、約束が守られなかったということです。このときは手放さず、何が守られなかったのかを具体的に伝えて話し合います。
場面別の期待の調整
外れやすい期待は、相手との関係によってある程度決まっています。自分がつまずきやすい場面の行だけ確認してください。
| 相手 | 外れやすい期待 | 調整のしかた |
|---|---|---|
| 職場の同僚・部下 | 言わなくても気を利かせてほしい、一度教えたことは覚えているはず | 担当と期限を決めて頼む。繰り返す作業は手順を書いて渡す |
| 上司 | 頑張りを見て評価してほしい | 成果と進み具合を自分から報告する。何で評価されるのかを面談で確認する |
| パートナー・家族 | 疲れや不満を察してほしい、家事に自分から気づいてほしい | 家事は分担を話し合って決める。気持ちは「今日は疲れているから〜してほしい」と言葉にする |
| 友人 | 連絡や誘いを同じくらいの頻度で返してほしい | 連絡の頻度は人によって違うと考え、自分が連絡したいときにする。急ぎの用件は返信の早い手段で伝える |
期待しない姿勢が裏目に出るケース
期待を手放すことが行き過ぎると、別の苦しさが生まれます。次の状態に心当たりがあれば、手放しすぎていないか見直してください。
ひとつは、人に頼ること自体をやめてしまうケースです。「どうせ期待どおりにはならない」と考えて仕事や家のことを一人で抱え込み、休めなくなる人は少なくありません。手放すのは相手が知らない期待であって、依頼して引き受けてもらう関係は残しておくものです。最近だれにも頼みごとをしていないなら、小さな依頼を一つ言葉にしてみてください。
もうひとつは、期待しないことが関心の喪失に変わるケースです。パートナーや家族に対して「言っても無駄」が続くと、会話そのものが減っていきます。見切りをつける前に、少なくとも一度は不満を具体的な依頼として伝え、相手の反応を見てから判断します。