アサーティブ コミュニケーションとは|職場で使える伝え方と例文

午後5時に追加の仕事を頼まれ、本当は難しいのに「分かりました」と答えてしまう。反対に、我慢が続いた末に「急に言われても無理です」と強く返してしまうこともあります。

アサーティブ コミュニケーションは、我慢と攻撃の中間を取るだけの話し方ではありません。自分の考えや事情を率直に示しながら、相手にも異なる意見や断る選択があると認める方法です。

事実、影響、希望、選択肢の順に内容を整理すると、依頼や断りだけでなく、意見対立や注意にも応用できます。何を伝え、何を相手に委ねるかを区別することが大切です。

この記事のポイント
  • 我慢と攻撃の違いを整理
  • DESC法を会話に落とし込む
  • 職場の場面別例文を掲載
  • 通用しない場面も見極める
目次

アサーティブ コミュニケーションとは

アサーティブ コミュニケーションとは、相手の考えを尊重しながら、自分の考えや感情も状況に合った形で伝える方法です。

「率直に言う」という部分だけを取り出すと、強い自己主張と区別できません。自分には意見や希望を表す権利があり、相手にも受け入れるか断るかを判断する権利がある。この両方を扱う点に特徴があります。

相手が希望どおりに動かなかったとしても、必要な情報を隠さず、相手の返答を聞けたなら対話は成立しています。説得の成功率だけで評価しないことが、アサーティブな姿勢を保つ土台になります。

攻撃的・受動的な伝え方との違い

伝え方は、攻撃的、受動的、アサーティブの3タイプで比べると理解しやすくなります。

タイプ自分の扱い相手の扱い典型的な表現
攻撃的自分を優先する相手の事情や選択を軽視する今日中に必ずやってください
受動的自分の事情を抑える相手を優先しすぎる大丈夫ですと引き受けて後で苦しくなる
アサーティブ自分の事情を示す相手の事情と返答も尊重する今日中は難しいため明日午前なら対応できます

受動的な対応は、その場の衝突を避けやすい反面、不満や過重負担を相手に伝えられません。攻撃的な対応では要望が早く伝わっても、相手が反論や相談をしにくくなります。

アサーティブな人も、断られたり反対されたりします。違いは、相手を支配せず、自分も黙らず、次の選択を話し合えることです。

アサーティブな対話がすれ違いを減らす理由

話し合いがこじれるときは、意見が違うことより、事実と評価が混ざっている場合があります。「いつも対応が遅い」と言われた人は、依頼の内容より「自分は仕事が遅い人間だ」という評価に反応しがちです。

評価を観察できる事実に置き換えると、双方が同じ材料を見られます。「今週依頼した3件のうち、2件が予定日の翌日に届きました」と伝えれば、確認や訂正が可能です。

事実と評価を分ける

事実は、日時、回数、発言、行動など、相手と確かめられる情報です。「無責任」「やる気がない」「普通ではない」といった言葉は、話し手の評価に当たります。

評価を一切持ってはいけないわけではありません。評価を事実のように言い切らず、自分への影響や受け止めとして分けます。

  • 評価が混ざった表現:説明が雑なので困ります
  • 分けた表現:手順書に提出先がなく、確認に30分かかりました
  • 希望を加えた表現:次回は提出先も記載してもらえますか

事実だけを並べても、何を望んでいるかは伝わりません。自分への影響と希望まで言葉にして、相手が返答できる状態をつくります。

お願いと命令を分ける

語尾に「お願いします」を付けても、断る余地がなければ実質的には命令です。依頼として伝えるなら、いつまでに何をしてほしいのかを示し、難しい場合の返答も受け取ります。

相手が断った後も同じ要求を繰り返すと、丁寧な言葉を使っていても圧力になります。「難しい理由を教えてください」「期限と範囲のどちらなら調整できますか」と尋ねるほうが、現実的な合意を探せます。

医療従事者を対象としたアサーティブコミュニケーション研修の系統的レビューでは、対象8研究のうち6研究でコミュニケーション面の改善が報告されました。一方、2研究では有意な効果が確認されず、階層関係や文化、報復への不安も実践の障壁とされています。

この結果を一般の職場へそのまま当てはめることはできません。ただし、話し方を学ぶだけでは足りず、異論を言っても不利益を受けない環境が必要だと読み取れます。

DESC法で伝える内容を組み立てる

言いにくい内容は、DESC法で下書きすると整理できます。DESCの英語表記や日本語訳には複数の説明がありますが、実践では次の4要素として捉えると使いやすくなります。

要素整理する内容確認すること
D観察できる事実や状況評価や決めつけが入っていないか
E自分への影響や気持ち相手の内心を推測していないか
S具体的な提案や希望相手が行動を判断できるか
C結果や選択肢脅しではなく次の対応になっているか

D 客観的な状況を示す

Dでは、日時や行動などの事実を短く示します。「最近ずっと遅い」ではなく、「今週の会議は2回とも開始予定を10分過ぎました」と表現します。

相手と事実認識が違う可能性も残します。「私の記録では」「認識が違っていたら教えてください」と添えれば、断定による衝突を避けられます。

E 自分への影響や気持ちを伝える

Eでは、起きたことが仕事や自分にどう影響したかを話します。「やる気がないように見えます」は相手への評価です。「後の予定を変更する必要があり、対応に困っています」なら、自分側の情報になります。

気持ちを無理に強調する必要はありません。「心配です」「戸惑っています」のほか、「確認作業が増えています」と実務上の影響を示すだけでも十分です。

S 具体的な提案を出す

Sでは、相手にしてほしい行動を明確にします。「気を付けてください」では、人によって受け取り方が変わります。「開始に遅れそうなときは、5分前までにチャットで知らせてもらえますか」とすれば、相手が判断できます。

要求を小さく具体化すると、相手も修正案を出しやすくなります。期限、担当、回数、連絡方法のうち、必要な情報を言葉にします。

C 結果や選択肢を共有する

Cでは、提案が受け入れられた場合の良い結果や、難しい場合の代案を共有します。「連絡があれば、後の予定を調整できます」「今日が難しければ、明日の午前中でも構いません」といった表現です。

従わなければ評価を下げるなど、不利益を示して従わせることとは異なります。業務上の期限や対応不能の条件を伝える必要があるなら、感情的な罰ではなく事実として説明します。

4要素を毎回すべて口にすると、会話が不自然になる場合があります。DとSだけで通じる日常的な依頼なら、「資料の2ページ目が空欄でした。正午までに追記をお願いします」で足ります。

職場で使えるアサーティブ コミュニケーションの例文

職場では、丁寧さを増やすより、相手が判断できる情報を過不足なく示すほうが伝わります。前置きが長くなりやすい人は、事実と希望を一文ずつ書いてから話すと整理できます。

仕事を依頼する

悪い依頼は「できれば早めにお願いします」のように、期限と優先度が曖昧です。急ぎだと感じた相手が別の仕事を止めれば、後から不満が残ります。

例文:「顧客への回答に必要なので、この表の売上欄を明日15時までに入力してもらえますか。難しければ、対応できる時間を教えてください」

目的、作業、期限、難しい場合の返答が含まれています。相手が難しいと答えたら、期限を変える、範囲を減らす、別の担当者を探すという調整に移れます。

依頼を断る

断るときに謝罪だけを重ねると、断ったのか保留なのか分かりません。対応できない範囲と、可能なら代案を伝えます。

例文:「今日は17時までに別の資料を提出するため、この作業は引き受けられません。明日の午前中でよければ対応できます」

代案を出せないときは、無理に付ける必要はありません。「今週は予定が埋まっているため対応できません」と伝えても、アサーティブな断り方です。

突然の依頼にすぐ判断できないなら、「予定を確認して14時までに返答します」と時間を確保できます。反射的に引き受けて後から撤回するより、双方が予定を立てやすくなります。

上司と異なる意見を伝える

上司への反対意見は、「それは間違っています」と結論だけをぶつけるより、懸念の根拠と代案を組み合わせます。

例文:「金曜日公開の案について、確認期間が1日しかない点を懸念しています。誤記を減らすため、公開を月曜日に変更するか、確認担当を1人増やせないでしょうか」

判断権が上司にある場合でも、必要な懸念を伝えることと、最終判断に従うことは両立します。ただし、安全上の問題や法令違反の疑いまで、通常の意見相違として処理する必要はありません。

相手の行動を注意する

人格ではなく、変えてほしい行動を扱います。「配慮が足りない」「社会人として問題がある」と評価しても、次に何を変えるべきかは明確になりません。

例文:「昨日の会議で、私が説明している途中に3回発言が重なりました。説明を終えるまで待ってから意見をもらえると助かります」

相手が「急ぎだと思った」と説明したら、意図まで否定せず、次回の方法を相談します。「緊急なら手を挙げて知らせてもらえますか」と具体化すれば、同じ問題を避けやすくなります。

厚生労働省のあかるい職場応援団でも、依頼、断り、フィードバックなどの場面を通じ、自分と相手を尊重する会話術が紹介されています。

うまくいかない原因と使わないほうがよい場面

アサーティブに伝えたつもりでも話が進まない場合、言葉の丁寧さではなく、希望の曖昧さや隠れた非難を確認します。相手の性格だけを原因にすると、修正できる部分を見落とします。

丁寧にしすぎて希望が消えている

「お忙しいところ大変恐縮ですが、もし可能であれば」と前置きを重ねると、依頼の重要度が見えません。配慮は短く示し、期限や希望を明確にします。

  • 曖昧な表現:時間があるときに確認してもらえると助かります
  • 明確な表現:会議で使うため、木曜日の正午までに確認をお願いします

相手が断れることと、希望を曖昧にすることは別です。断る余地は、返答を受け止める態度で示せます。

私を主語にして相手を責めている

「私はあなたの態度に傷つきました」と言えば、文法上は自分が主語です。しかし、相手のどの行動を扱うのか分からなければ、人格への非難として受け取られることがあります。

「今日の打ち合わせで『理解が遅い』と言われ、発言しにくくなりました。その表現は使わず、修正点を具体的に伝えてください」と分けると、問題の行動と希望が明確です。

個人の話し方では解決できない問題がある

暴力、脅迫、継続的なハラスメント、明らかな安全上の危険がある場面では、落ち着いて伝えれば解決するとは限りません。緊急時は安全確保や明確な指示を優先し、記録、上司や人事への報告、社内外の相談窓口の利用を検討します。

立場の強い人が不利益をほのめかしている場合も、本人との一対一の対話だけに頼らないほうが安全です。個別事情によって適切な対応は異なるため、職場の相談窓口や労働局などで確認してください。

アサーティブ コミュニケーションは、相手の行動を変える保証ではありません。必要なことを明確に伝えた記録を残し、対話以外の対応へ移る判断も、自分を尊重する行動に含まれます。

今日から身につける練習方法

本番で急に整った言葉を出そうとすると、長い説明になりがちです。負担の小さい場面を選び、短い依頼や断りから練習します。

STEP
言えなかった場面を書き出す

依頼を断れなかった、注意できなかったなど、実際の場面を一つ選びます。

STEP
確認できる事実だけを一文にする

評価や決めつけを除き、日時・行動・回数などに置き換えます。

STEP
自分への影響を一文で加える

困っていることや仕事への影響など、自分側で起きていることを整理します。

STEP
希望や断る範囲を具体化する

してほしい行動、期限、対応できない範囲などを、相手が判断できる形にします。

STEP
声に出して30秒程度まで削る

説明が長すぎる部分を削り、事実と希望が伝わる長さに整えます。

STEP
NOだった場合の代案を考える

期限、範囲、担当など、どこなら調整できるかをあらかじめ考えておきます。

「相手が承諾したか」だけで振り返ると、断られるたびに失敗したと感じます。事実と評価を分けたか、希望を明確にしたか、返答を遮らなかったかという自分の行動を確認します。

今日試すなら、昼休みの時間調整や資料の確認依頼など、対立の少ない場面が向いています。「13時から予定があるので、12時50分までに戻りたいです」と短く伝え、相手の返答を待ちます。

慣れてきたら、断りや意見の相違へ広げてください。うまい言い回しを探し続けるより、事実、影響、希望、選択肢を紙に一度書くほうが、次の会話を変えやすくなります。


参考資料

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