いじめをなくすことは、多くの人の切実な願いです。文部科学省の令和6年度調査では、いじめの認知件数は 76万9,022件 と過去最多を更新し続けており、有効な手立てが強く求められています。
いじめをなくす鍵は、誰か一人ががんばることではなく、いじめが割に合わない環境をみんなでつくることです。立場ごとにできることは、家庭は子どもが安心して話せる関係を築くこと、学校はいじめを許さない規範と組織的な対応の仕組みを整えること、そして周囲の子どもははやし立てず被害者に寄り添うことです。
いじめをゼロにするのは簡単ではありませんが、この三者が連携すれば、確実に減らしていけます。
この記事では、公的指針と研究をもとに、それぞれの立場で今日から実践できる具体策を、なぜ効くのかという理由とともに解説します。なぜいじめが起こるのかという原因を先に知りたい方は、別記事のいじめの原因もあわせてお読みください。

いじめをなくす鍵は「割に合わなくする」こと
具体策に入る前に、対策全体を貫く考え方を押さえておきます。ここがぶれなければ、個々の対策が一本の筋でつながります。
いじめは、加害者にとって何らかの見返り、たとえば集団内での地位や注目、すっきり感があるからこそ起こり、続きます。教育心理学者の大西彩子氏らの研究でも、いじめに否定的な規範が浸透しているクラスでは加害傾向が低いことが示されています。つまりいじめをなくすとは、加害者を叱って抑え込むことではなく、いじめても得をしない、むしろ割に合わない環境をみんなでつくることに他なりません。頭ごなしの叱責だけでは不十分で、集団の空気そのものを変える発想が要になります。以下の家庭・学校・周囲の対策も、すべてこの一点に向かっています。
安心して話せる関係をつくり、サインに気づく
組織で対応し、いじめを許さない規範を育てる
はやし立てず、傍観者から仲裁者へ変わる
いじめが「割に合わない」空気が生まれる
三者が連携して初めて、加害の見返りが消える
家庭でできること
家庭の役割は、いじめの被害にも加害にも早く気づき、支える土台をつくることです。
安心して話せる関係を日頃から築く
法務省は、普段から子どもと学校での出来事を話し合う時間をつくり、いじめの早期発見に努めることの重要性を強調しています。日常的な対話の積み重ねが、いざというときのSOSを引き出す最大のセーフティネットになります。
このとき、声のかけ方には少しコツがあります。「最近どう?」と漠然と尋ねても、子どもは答えにくいものです。「今日いちばん嫌だったことって何だった?」のように具体的に聞くと、気持ちを言葉にしやすくなります。また「何かあったら言って」ではなく、「もし学校で困ったことがあったら、まずお父さんお母さんに教えてね」と、自分が味方であることをはっきり伝えておくと、子どもは相談先として親を思い浮かべやすくなります。日々の関わりでは、結果よりもその過程を認め、一日のうち短い時間でも子どもの話を否定せずに聴くことが、安心感を育てます。家庭が子どものストレス源にならず安心できる場であることは、子どもを加害へ向かわせない予防にもなります。
いじめのサインに気づく
被害を受けている子どもは、言葉にする前に態度で小さなサインを出すことがあります。次のチェックリストで、日常の変化を確かめてみてください。3つ以上あてはまるなら、いじめを疑って早めに向き合うタイミングです。
- 文房具や持ち物が、不自然に頻繁に壊れたり、なくなったりする
- 服の汚れや破れ、体の傷やあざが増えたが、理由をはっきり言わない
- 日曜の夜や月曜の朝に、腹痛や頭痛など体の不調を訴えて学校を渋る
- 口数が減り、学校や友人の話題を避けるようになった
- 金銭の減りが早くなる、お金をせがむことが増えた
- 食欲や睡眠が乱れ、寝つきが悪い・夜中に目を覚ますことが増えた
- スマホやSNSを見た後、急に表情が暗くなる・こそこそ隠す
- 「学校がつまらない」「行きたくない」とこぼす回数が増えた
- 元気がなくなり、ささいなことでイライラしたり涙もろくなったりする
- 休み時間や放課後の予定を聞くと、はぐらかす・遊ぶ友達の名前が出てこない
こうした兆候に気づいたら、問い詰めるのは逆効果です。心配していることを穏やかに伝え、子どものペースで話せるようにします。気づいた情報は、次に述べる学校との連携につなげることが大切です。
やってはいけないNG行動を避ける
子どもがサインを出しているとき、親の何気ない一言が、かえって口を閉ざさせてしまうことがあります。よかれと思っての対応が逆効果になるケースは少なくありません。次のチェックリストに心当たりがあれば、次の会話から見直すだけで子どもは話しやすくなります。
- 「あなたにも悪いところがあるんじゃない?」と、被害を受けた子を責める
- 「気にしすぎ」「そのくらい我慢しなさい」と、つらさを軽く扱う
- 問い詰めるように質問攻めにして、話すのを怖がらせる
- 子どもに相談されたのに、本人に無断で相手や学校に乗り込む
- 「やり返しなさい」など、力での解決をあおる
- 感情的に取り乱し、親のショックを子どもに背負わせてしまう
- 「今忙しいから後で」と、打ち明けようとした瞬間を後回しにする
打ち明けてくれたときは、まず「話してくれてありがとう」「あなたは悪くない」と受けとめることが何より大切です。子どもは、親が味方でいてくれると感じられて初めて、続きを話せるようになります。
わが子が加害者や傍観者だと気づいたら
いじめをなくすことを考えるとき、見落とされがちなのが、自分の子どもが加害する側やそれを見ている側にいる可能性です。多くの情報は被害者の視点で書かれていますが、加害と傍観に向き合うことも、いじめをなくすうえで欠かせません。
わが子が加害に関わっていたと知ると、頭ごなしに叱りたくなるかもしれません。しかし前述のとおり、いじめは加害者にとって何らかの見返りがあるから続きます。まずは行為そのものを明確にいけないことだと伝えたうえで、なぜそうしたのか、背景にストレスや不満、集団の空気への同調がなかったかを、責めずに聞き取ることが大切です。加害を正すとは、罰することではなく、いじめても得をしないと本人が理解し、相手の痛みに気づけるよう導くことです。
わが子が傍観者だった場合も、責める必要はありません。止められなかったことを責めるより、次に同じ場面に出会ったとき、はやし立てない、被害を受けている子に声をかける、大人に伝えるという選択肢があることを一緒に考えておくことが、仲裁者への一歩になります。
学校でできること
いじめをなくすうえで学校が担う役割は決定的です。いじめ防止対策推進法は、学校に対して防止・早期発見・対処の体制を組織として整えることを求めています。
一人で抱えず組織で対応する
同法は、学校にいじめ対策のための組織を置くことを定めています。担任が一人で抱え込むのではなく、いじめの疑いに関する情報を教職員間で共有し、記録し、組織として対応することが要になります。個人の判断や力量に頼る対応には限界があり、情報を集約して複数の目で見ることが、見落としや対応の遅れを防ぎます。
いじめを許さない規範と早期発見の仕組みをつくる
いじめに否定的な学級規範が浸透しているクラスでは、加害が起きにくくなります。教師が受容的で自信を持った態度で子どもと信頼関係を築くことが、その空気を育てます。あわせて、定期的なアンケートや面談で小さな兆候を早期に把握する仕組みを持ち、いじめを初期段階で見える化することが、深刻化を防ぐうえで欠かせません。ノルウェーのオルヴェウス・プログラムのように、学校全体で一貫した方針を持って取り組む枠組みが、国際的にも効果を上げています。
周囲の子どもができること
いじめをなくす最大の鍵を握っているのは、実は周囲の子どもたちです。
いじめは、加害者と被害者だけでなく、はやし立てる観衆と、見て見ぬふりをする傍観者を含めて成立します。観衆は加害を面白がることでいじめを是認し、傍観者は黙認することで結果的にいじめを支えてしまいます。逆に言えば、この周囲が変われば、いじめは成り立たなくなります。実際、傍観者への働きかけを軸にしたフィンランドのKiVaプログラムは、傍観的な態度を減らし、被害者への共感やサポートを増やすことでいじめを減らす効果が、大規模な調査で確認されています。
そこで大切になるのが、傍観者を仲裁者へと変えていくことです。仲裁者とは、いじめを止めようとしたり、被害者に寄り添ったり、信頼できる大人に伝えたりする役割です。
いじめを見た人へ
はやし立てず、笑わないだけでも、加害者にとっての見返りは減ります。直接止めるのが難しくても、被害を受けている子にそっと「大丈夫?」と声をかける、先生や親に伝えるといった行動が、状況を大きく変えます。誰かに伝えることは、告げ口ではなく人を助ける行動です。
いじめられている人へ
いじめは、あなたのせいではありません。我慢して一人で抱え込む必要はまったくないのです。信頼できる大人、たとえば親や先生、スクールカウンセラーに話してください。話しにくければ、この記事の最後にある相談窓口を使ってもかまいません。いつ、誰に、何をされたかをメモに残しておくと、大人が動くときの助けになります。
それでもいじめが起きてしまったら
どれだけ予防しても、いじめが起きてしまうことはあります。そのとき最も大切なのは、被害を受けている子を一人にしないことです。被害者に原因を求めたり、我慢や解決を本人に押し付けたりしてはいけません。
保護者は気づいた事実を記録し、学校の相談窓口や担任、いじめ対策組織に伝えて連携します。学校の対応に不安がある場合や、当事者が直接相談したい場合には、公的な相談窓口も利用できます。一人で、あるいは一家庭だけで抱え込まないことが、解決への近道です。
- 24時間子供SOSダイヤル(0120-0-78310):子ども本人・保護者向け。24時間対応
- 子どもの人権110番(0120-007-110):子ども本人・保護者向け。平日8時30分〜17時15分
いじめをなくすことについてのよくある質問
- 学校がなかなか動いてくれないときはどうすればいいですか
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まず事実を記録し、担任だけでなく学年主任や管理職、学校のいじめ対策組織に文書で伝えます。それでも改善しない場合は、教育委員会や上記の公的相談窓口に相談することができます。
- 親に言えないときはどうしたらいいですか
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親以外にも、担任、スクールカウンセラー、保健室の先生など、話せる大人はいます。誰にも話しにくいときは、匿名で使える相談窓口を利用してください。
- いじめは本当になくすことができるのですか
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残念ながらゼロにすることは簡単ではありません。ただし、いじめが割に合わない空気を家庭・学校・周囲がつくることで、発生を減らし、深刻化を防ぐことは十分にできます。
いじめをなくす道のりは、地道な積み重ねです。けれども、いじめが割に合わない空気をそれぞれの場所でつくっていけば、確実に減らしていくことができます。
本記事は、いじめ防止対策推進法および文部科学省・法務省の公表資料、国内外のいじめ対策研究の知見をもとに構成しています。
参考文献
- 学校の組織的対応・防止・早期発見・対処の義務の出典。文部科学省「いじめ防止対策推進法(平成25年法律第71号)」 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1337278.htm
- いじめの認知件数(令和6年度76万9,022件)の出典。文部科学省「令和6年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」 https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1422178_00006.htm
- 家庭でのコミュニケーションと早期発見、相談窓口に関する出典。法務省「『いじめ』をなくすために」 https://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken04_00155.html
- 傍観者への働きかけとKiVaプログラムの効果に関する出典。北川裕子ほか「学校におけるいじめ対策教育」不安症研究(J-STAGE) https://www.jstage.jst.go.jp/article/adr/5/1/5_31/_article/-char/ja/
