「なぜ、うちの子がいじめられなければならないのか」「どうしてあの子は人を傷つけるのか」。いじめに直面したとき、多くの保護者や当事者が、その原因がわからず深く悩みます。
結論から言えば、いじめの原因は一つではありません。教育心理学や公的調査では、いじめは単一の原因では説明できない複合的な問題とされ、加害者本人の心理、クラスの空気、家庭環境、SNSの普及といった複数の要因が重なったときに起こります。そして多くは、軽いからかいから始まります。大前提として、被害者に原因はありません。
文部科学省の令和6年度調査では、いじめの認知件数は 76万9,022件 と過去最多を更新し、児童生徒1,000人当たりの認知件数も61.3件にのぼりました。生命や心身に重大な被害が生じた疑いなどで学校が調査義務を負う「重大事態」も、1,405件と深刻な状況が続いています。
この記事では、公的機関の調査と教育心理学の知見をもとに、いじめが起きる原因を要因別に整理し、原因を踏まえた向き合い方までを解説します。
いじめの原因を考える前提
原因を要因ごとに見ていく前に、二つの前提を確認しておきます。この二つを押さえておくと、原因の理解が大きくぶれなくなります。
原因の核心は力の不均衡にある
いじめとよく似た行為にケンカがあります。両者を分けるものは何でしょうか。いじめ研究の第一人者であるノルウェーの心理学者ダン・オルヴェウスの定義によれば、いじめには加害の意図、繰り返し継続すること、そして力の不均衡という三つの要件があります。このうち最も本質的なのが力の不均衡です。対等な者同士のぶつかり合いはケンカですが、反撃できない相手を繰り返し攻撃するのがいじめです。個々の原因を見ていくときも、それが力の非対称をどう生み、どう利用しているかという視点を持つと、本質を見失わずにすみます。
被害者に原因を求めてはならない
もう一つ、絶対に外せない前提があります。いじめの原因を被害者に求めてはならないということです。「いじめられる側にも問題があるのでは」という声を見かけることがありますが、法務省も、動作が遅いとかおとなしいといった特定のタイプだけでなく、あらゆる子どもがいじめの対象になりうると指摘しています。被害者に落ち度を探す視点は、いじめを見逃し、正当化することにつながります。原因や責任を問うべきなのは、あくまで加害する側です。この記事で要因を分析するのも、いじめを防ぐためであって、被害者を分析するためではありません。
いじめる人の特徴と心理 -なぜ加害者になるのか-
いじめる側の心理は、決して単純ではありません。日常のストレスやいらだちを抵抗しにくい相手にぶつける欲求不満の解消、相手を思いどおりにしたい支配欲、面白半分の遊び感覚、強い者に追従する同調、そして妬みや報復。こうした複数の心理が重なり合って、加害へと向かいます。
とりわけ注意したいのは、遊び感覚でいじめる子どもには加害の自覚が乏しく、罪悪感を持たないことが多いという点です。文部科学省の令和6年度調査でも、最も多いいじめの態様は「冷やかしやからかい、悪口や脅し文句、嫌なことを言われる」で、小中学校では半数を超えています。たとえば、クラスで一人だけ反応が遅い子がいると、最初は軽いからかいだったものが、周囲の笑いを誘うことでエスカレートし、次第に「いじってもいい存在」として固定されていくことがあります。あだ名でのからかいや、いきすぎたプロレスごっこが、いつのまにか一方的な加害に変わっているケースです。深刻ないじめの多くは、こうした軽い気持ちや面白半分から始まっているのです。加害者本人にとっては、いじめが遊びや制裁にすり替わり、悪いことをしているという意識が働きにくくなります。
いじめが起こるクラス・学校の特徴
いじめは加害者と被害者だけの問題ではありません。それを取り巻く集団の空気こそが、いじめを生み育てる大きな要因になります。
クラスの雰囲気・規範が加害傾向を左右する
教育心理学の研究では、いじめに否定的な規範が浸透しているクラスでは、生徒の加害傾向が低いことが明らかになっています。逆に言えば、そうした規範が育っていない、雰囲気の悪い学級は、いじめが起きやすい土壌になります。同じ子どもたちでも、所属する集団の空気しだいで加害の起きやすさは変わるということです。
教師の姿勢が空気をつくる
その空気を左右する要因として、教師の存在が挙げられます。研究では、教師が受容的で親近感があり、自信を持った客観的な態度で子どもに接することが、いじめに否定的な学級規範を高めると示されています。教師がしっかりしていて雰囲気のよいクラスではいじめが起きにくいという実感は、データにも裏づけられています。裏を返せば、教師の指導力や学級経営に問題があることも、いじめが起きやすくなる一因になりえます。
家庭環境・SNSがいじめに与える影響
家庭環境も、いじめと無関係ではありません。中学生を対象とした調査では、家庭に安らぎがあるかどうかがいじめとの関連を示しており、家庭内で生じたストレスを、学校で攻撃しやすい相手にぶつける形も確認されています。親から過度な期待を押し付けられているプレッシャーや、家庭内の不和を日常的に見ているストレスが、子どもの自己肯定感を揺るがし、その歪みが学校での行動に表れることもあります。家庭が安心できる場でないことが、子どもを加害へ向かわせる一因になりうるのです。
現代特有の要因として無視できないのがSNS・ネットいじめです。文部科学省も、認知件数増加の背景の一つとしてSNSを介したいじめの増加と、その把握の難しさを挙げています。グループLINEからの意図的な仲間外れや、匿名の質問アプリを使った陰湿な誹謗中傷など、その形はさまざまです。匿名で行える攻撃は、24時間逃げ場がなく、大人の目が届きにくいという深刻な特徴を持ちます。教室の中だけで完結していた従来のいじめとは異なる、新しいタイプの原因といえます。
ここまで見てきたように、いじめは主に次の4つの要因が重なって発生します。加害者側の心理、集団・学校の空気、家庭環境、そして社会・SNS。これらが単独ではなく、絡み合って力の不均衡を生み出したときに、いじめは発生し、継続します。
いじめを生む4つの要因
※要因は単独ではなく、複数が重なって作用する
原因を踏まえていじめにどう向き合うか
いじめの原因は加害者個人だけに帰せられるものではなく、集団・家庭・社会の要因が複雑に絡み合って生まれます。だからこそ、対処もひとつの立場だけでは完結しません。
家庭でできるのは、子どもが安心して話せる関係を日頃から築いておくことです。法務省も、普段から学校での出来事を話し合う時間をつくり、早期発見に努めることの重要性を強調しています。学校に求められるのは、いじめは許されないという規範をクラス全体で共有し、小さな兆候を早期に把握して組織で対応することです。そして子ども自身や周囲にできるのは、はやし立てず、見て見ぬふりをせず、信頼できる大人に伝えることです。原因が複合的である以上、家庭と学校と社会が連携して初めて、いじめは防ぎやすくなります。
そもそもなぜ人はいじめてしまうのか、いじめの本質はどこにあるのかという、より根源的な問いに関心のある方は、別記事のいじめはなぜなくならないのかもあわせてお読みください。

いじめでお悩みの方は、一人で抱え込まないでください。以下の窓口が利用できます。
- 24時間子供SOSダイヤル(0120-0-78310):子ども本人・保護者向け。24時間対応
- 子どもの人権110番(0120-007-110):子ども本人・保護者向け。平日8時30分〜17時15分
本記事は、文部科学省・法務省の公表資料および教育心理学研究(J-STAGE掲載論文)の知見をもとに構成しています。
参考文献
- いじめの認知件数(76万9,022件・過去最多)・態様別状況・重大事態の出典。文部科学省「令和6年度 児童生徒の問題行動・不登校等生徒指導上の諸課題に関する調査結果」(2025年公表)
https://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/seitoshidou/1422178_00006.htm - いじめの定義およびあらゆる子どもが対象になりうる点の出典。法務省「『いじめ』をなくすために」
https://www.moj.go.jp/JINKEN/jinken04_00155.html - いじめ加害傾向と学級規範の関連に関する出典。大西彩子ほか「児童・生徒の教師認知がいじめの加害傾向に及ぼす影響」教育心理学研究(J-STAGE)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjep/57/3/57_3_324/_article/-char/ja/
